福岡地方裁判所 昭和24年(行)86号 判決
原告 広田荒次郎
被告 福岡県知事
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告代理人は被告が原告に対し、昭和二十三年十月十五日附爲した第一種事業税金二千六十二円の賦課処分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、被告は原告の昭和二十二年における仕事を地方税法第六十三條第二項第一号の物品販賣業に該当すると認め、昭和二十三年十月十五日附第一種事業税金二千三百四十三円を賦課し、同月十七日その旨の令書を原告に交付した。然し右課税処分は後記の理由により、違法たるを免れないものである故、原告から被告に対し、同月二十九日異議の申立を爲したところ、被告は昭和二十三年十二月四日附でそのうち金二百八十一円を取消す旨の決定を爲したのみでこれを全体として取消さない。然しながら第一種事業税の課税物件は地方税法第六十三條第二項各号に規定する事業所得であつて、これ等の事業外の所得については第一種事業税を賦課し得ないものであるところ、原告は同年中物品販賣業、仲立業その他事業税の対象となるような如何なる事業をも営んだことはないから、從つて原告に対する本件課税処分は明に違法たるを免れないものである。すなわち原告は昭和二十年から停年退職の昭和二十二年九月迄は久留米の福岡銀行三本松支店に小使として勤務し、退職後は日傭人夫として各所の雜役に使われていた者であつて、原告が事業税の対象となるような事業を営まなかつたことは、これ等の事実自体に徴し疑のないところである。然るに被告は原告に対し前記の如く金二千三百四十三円の第一種事業税を賦課し、異議申立に対してもそのうち金二百八十一円を取消したのみで全体としてこれを取消さない。それで茲に原告は被告に対し右取消されざる金二千六十二円の課税処分の取消を求めるため本訴請求に及んだと陳述し、被告の答弁に対し、原告の被告に対する異議申立が事業税の減額請求であつて、本訴において主張している如く、課税物件の不存在を主張し全体として賦課処分の取消を求めるものでなかつたことは認める。然しながら、異議申立において主張したところと、訴訟において主張するところとは必ずしも同一である必要はないと解すべきであるから、出訴権がないという被告の主張は理由がない。又原告が福岡銀行三本松支店に小使として雇われるまで鮮魚商を営んでいたことは認めるがその余の事実はこれを否認する、被告主張の鮮魚商は原告の妻が営んでいたものであると述べた。(証拠省略)
被告代理人はまず訴却下の判決を求め、その理由として、原告は本訴において自分は、第一種事業税の対象となるような如何なる事業をも営んだことはない。それにも拘らず被告は事業税を賦課したのであるが、これは要するに課税物件の存しないところに課税した違法があるといわねばならないから、全体として本件課税処分の取消を求めると主張している。ところが原告の被告に対する異議申立は單に事業税の減額請求であつて、本訴において主張しているところとは全く別のものである。それで右は本訴を提起するについての適法なる異議申立とはいい難いから、從つて本訴は訴訟要件を欠く不適法なものであると述べ、本案につき主文同旨の判決を求め、答弁として、原告の本訴請求原因事実中、原告が昭和二十二年において物品販賣業その他事業税の対象となるような如何なる事業をも営んだことがないという点はこれを否認し、その余の事実はこれを爭はない。然しながら、原告は久留米の福岡銀行三本松支店に小使として雇われる以前から鮮魚商を営んでいた者であつて、昭和二十二年中も笠辰已と共同で鮮魚商を営み、久留米魚類商業協同組合から魚類を仕入れ、これを販賣していたものであるから、被告が原告を物品販賣業を営む者と認めて、これに第一種事業税を賦課したことについては原告主張の如き違法の廉はないと陳述した。(証拠省略)
三、理 由
まず本訴の適否につき考えるに、被告は、本訴が異議申立の理由とは別個の、新しい事実をその請求原因としていることを理由に、これを不適法である旨主張するが、訴願の理由として主張した事実と当該行政処分の取消変更を求める訴訟の請求原因事実とは必ずしも同一である必要はない、つまり訴願の理由とは別個の事実を以て、当該行政処分の取消変更を求める訴訟の請求原因とすることは、何等妨げないものと解すべく、本件においても右と同趣旨に解するのが相当であるから、被告の前記主張は採用しない。
よつて本案につき調べるに、原告は、自分は昭和二十二年中物品販賣業等、事業を営んだ事実はない旨主張するけれども、成立に爭のない乙第二、三号証に証人高木繁人、笠辰已の各証言を綜合すれば原告が同年中笠辰已と共同で久留米魚類商業協同組合から魚類を仕入れ、これを販賣していた事実を認めるに充分であつて、右はいわゆる物品販賣業に該当すること明である。原告は銀行の小使や日傭人夫であつて右鮮魚商は原告の妻が営んでいた旨主張するけれども前記の各証拠によれば原告の妻は事実上の手傳をしていたに止まり営業の主体は原告自身であつたことは極めて明であるので、原告の右主張は理由がなく、その他右主張事実を認めて前記認定を覆すに足る的確なる証拠はない。
そうすれば被告が原告を昭和二十二年において、物品販賣業を営んだものと認め、これに第一種事業税を賦課したことには、原告主張の如き何等違法の廉はないといわなければならない。
よつて本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 丹生義孝 入江啓七郎 眞庭春夫)